メリモトインタビュー vol.1 モトクロスライダー 長谷川樹さん 2018.2
彼女との最初の出会いは川越のモトクロスヴィレッジ。
その日は彼女にとって大きな一歩となるレースデビューの日でした。
ご主人の付き添いでモトクロスコースには来ていたものの、土埃や環境に馴染めず車中潜伏。
降りるのはお手洗いに行くときだけ。
それ以外はずっと車の中で本を読んでいたそう。
ちなみに彼女の乗り物履歴は三輪車→ママチャリ→CRF100F→CRF125F運転免許はナシ。
そんな彼女がなぜ?!車から降りて、バイクに乗り、レースに出ることになったのか。
モトクロスへの最初のイメージからどっぷりモトクロス好きになるまでを赤裸々に話してくれました。
●コースに行くことに葛藤があったあの頃。
おとうちゃん(主人)が忙しくてしばらく休んでいたモトクロスを再開したのが5年位前。
その頃は、コースに付き添いで行っていたのですが、いまドコにいるのか?
おとうちゃんが何をしているか?
よくわかりませんでした。
レースに行けば朝早いし。
私はお買い物に行きたいのにー!!
でも、おとうちゃんは復活したばかりで楽しいからコースに行きたい!!
しかもバイク用品を色々買ってきて何に使うの? って感じでした。
モトクロスを知らなかった私にとっては土や砂に囲まれたモトクロスコースは靴や洋服が汚れるからいやだな。
と、車中潜伏。
●どうして車中潜伏をやめて降りることになったの?
最初は私たち誰も知り合いがいなくてパドックの隅っこの方に車を止めていたんですね。
ところがだんだんと知り合いやお友達ができてきて、挨拶するために降りざるを得なくなりました(笑)
●バイクに乗ることになったきっかけは?
車中潜伏を辞めて私と同じように付き添いで来ている人たちと話していくうちに仲良くなってきたんですね。
そしたら・・・みんなに「乗ってみなよ!」って言われたんです。
「えーー!?」って思ったんです。
けど、私ってちょーーーインドア派で人見知り!!
なので新しく何かをすることを避けてきた人生だったんです。
だから「このまま人生終わるのかな」って思ってたんですが
コーチになってくれるおとうちゃんもいるのにもったいないかなって。
今思えば、おとうちゃんが雨でもどろんこになってもニコニコしてるんです。
「なんであんなに過酷なのにニコニコしてるんだろ!?」
「何がそんなに楽しいんだろう。」
休止期間はあったけど30年近くも飽きずに乗り続けていられるモトクロスの魅力って何だろう?
乗ってみたらわかるのかなーというのもきっかけだったかもしれません。
●こうしてバイクに乗ることになった樹さん。
バイクに乗る前の準備や初めて履くモトクロスブーツに戸惑ったそう。
まずウエアーに着替えるだけで1時間はかかっていました。
どういう順番で何をつければいいのかわからなくてウエアを着てから
「あーニーパッドつけるの忘れた!!」ってまた脱いでつけて、着てで、1時間。
おとうちゃんには「もうみんな走っちゃってるよ!」とせっつかれました。
ヘルメットもうまくかぶれなくて髪の毛もぐっちゃぐちゃ。
それからブーツ。
ブーツとヘルメットは自分のものを買って乗り始めたんです。
新しいからブーツの革が硬いし足首が動かないからロボットみたいな歩き方になる。
トイレに行ってしゃがんだら後ろに転んだんですよ!!
ドアが開いていたらそのままゴロンってひっくりかえっていたところでした。
それくらい足首が動かないことに慣れるまで大変でした。
でも足首が動かないのは意味があるんだよって教わりました。
●初めてのバイクは?
おとうちゃんが当時持っていたノーマルのCRF100Fでコース内の木の周りをぐるぐる回ることになりました。
なんたって自転車からいきなりCRF!!ですからアクセルをほんのちょっと開けただけで、ものすごく速く感じました。
クラッチを一気に話したらウイリーしちゃってこわくてテンションめっちゃ下がりました。
ゼロ以下からのスタートでした。
●バイクに乗った感じはどうでしたか?
おそるおそる木の周りを回るところから始め、次に初心者コースでゆっくり走りました。
なんか不思議な感覚でした。
自転車しか乗ったことないしエンジン付きの乗り物が初めてだったのでなんか宙に浮いているような感じ。
でも徐々におもしろいなって思えるようになりました。
いまでもまだ不思議な感じがあるんですよ。
乗るまではバイクってエンジンの力で運んでくれるんでしょ!?
と思ってましたが、8割はライダーだなと思うようになりました。
●徐々にバイクの面白さを感じ始めた樹さん。乗り始めたばかりでレースに出ることになったのは?
ウイークエンドレーサーズの復活がきっかけでした。
おとうちゃんが
「初心者のクラスもつくってくれるっていうから練習しよう!!」って
だいぶ育成熱を上げていました。
でも私にはそこまでの熱はありませんでした。
そんな私をおとうちゃんがうまく導いてくれましたね。
それからは「がんばるから!」とおとうちゃんと二人三脚で練習をすることに。
ただ私は頭で理解してからでないと体が動かせない。
でもおとうちゃんはバイクに乗っている人だから感覚で言うんですよ。
それがわからなくって・・・
でもじっくり話せば理論的に話してくれるようになりました。
●バイクに乗るようになってご主人にも変化が!
うちのおとうちゃん無口で寡黙な人なんです。
でもバイクに乗り始めてから1年半くらいになるのですが会話がめっちゃ増えました!!
以前はご飯を食べに行っても30分くらいで食べて帰る感じでした。
バイクに乗るようになってからは2時間3時間でも話してます。
「乗る時あれはこうしたほうがいいよ」話すようになって、さらに仲良くなっていい関係になれた気がします。
●バイクに乗ってうれしかったこと
付き添いでコースに行っていたころは「長谷川さんの奥さん」だったんです。
それがバイクに乗り始めてからは「樹」「いっきー」って名前で呼んでくれるようになって。
それがうれしかったかな。
私のこと仲間としてまだ認めてくれるようになったのかな!?って。
●モトクロスを通じて大事にしたいこと。
女性らしいさは大事にしていたい!!
モトクロスって男の人が多いし男っぽいスポーツの印象でした。
でもせっかく女性なんだから可愛くきれいにしていたいなって思うんです。
本当は髪の毛を短くすれば楽かなって思います。
でもヘルメットから髪の毛が出ていたり、ピンクのグローブとかウエアとか見れば女性が走ってる!
って周りもわかりますよね。
ウエアなどもファッション感覚で選ぶのも楽しいです!
コンタクトで乗るようになってからはゴーグルを選べる範囲も広がって、視界もメガネより見やすくなりました。
汚れたくない気持ちはいまもあります。
マディーだと下着の中までびしょびしょ。
そんなときはモトパンの中にウエスを入れて中に泥が入らないようにするとか、ブーツにテープを巻いたりしています。
ヘルメットをかぶると眉毛が落ちちゃうし、にじんだりするので目元のメイクはほとんどしていません。
走っている時ゴーグルから目が見えるのでマツエクでもしようかなって考えてます。
バイクを乗り終えた後にふきとり用のコットンで汚れを落として直してきれいにしようと思っています。
表彰台に上って写真にとられて雑誌に乗っちゃうかもしれないし♪
●レースに向けてご主人からのアドバイス
ウエアとかヘルメットとか揃えてバイクもゼッケンも555。
ゾロ目って気合い入ってそうだし
「私恰好ばっかりじゃない?」と言うと
「これはお祭りなんだから楽しんだもの勝ちだよ!」
「プロじゃないんだから結果じゃないケガなく楽しければいいそれくらいの気持ちでやろうよ」
って言われて気が楽になりました。
●2017年4月いよいよレースデビューの日
めっちゃ緊張しました。
あのとき誰がいたか覚えていないくらいスタート前は緊張しました。
みんなが撮ってくれた写真を見てわたしやっぱりレース出てたんだ!って思う不思議な感覚。
レース時間の10分が長く感じました。
ラップされるってわかっているけどラップされて土が自分のところに飛んできたときしょんぼりするんです。
「やっぱりレースは向いてないのかな、レジャーとして楽しめばいいかな」って。
でもチェッカーを受けて戻ってきたら「あそこがよかったよ!」って声をかけてくれたりレース中も応援してくれたりすると
「よし次も頑張るか!」ってなりました。
いまもみんなのおかげで何とか自分の気持ちを上げられています。
●ウイークエンドレーサーズ2017年度全戦参戦中。
レースにはだいぶ慣れてきましたか?
いや~今でもエントリーリストに自分の名前が載るとワクワクドキドキと不安が入り混じって寝られなくなります。
レース当日も暖気のエンジン音を聞くだけでお腹が痛くなる。
以前速い人にルーティーンやゲン担ぎをするとこれをしたから大丈夫っていう気持ちになれるよって教えてもらったんです。
それからは車の中で声を出してでっかい溜息をつくのがレース前のルーティーンになっています。
溜息で不安を全部吐き出しています。
●スタートグリッドには必ずご主人が付き添っていますね。
まだおとちゃんについてもらわないとスタート前不安で不安で。
でも、1月のレースでは前のレースを走っていたおとうちゃんがマシントラブルで私のレースに間に合わなくて不安とおとうちゃんの心配をしながらスタートしたんです。
何周目かにストレートに戻ってきたらなんか「わーわー」言ってる人がいるなって見てみたらおとうちゃんだったんです!
「あー元気でよかった」ってほっとして目線を戻したら1コーナーが目の前で慌ててブレーキを握ったら転んでしまいました。
●転ぶとこわくないですか?
周りからは転んでも最後まで堂々と走っているように見えているらしいのです。
実はね、震えてるんですよ。
おとうちゃん見て転んだ時もそうでした。
でもあと1周とわかってレースに戻ろうって。
それも経験かな~って今は思ってます。
転んで学ぶことや知ること多いんです。
バイク起こすの重いなとか(笑)何事も経験。ケガさえしなければ。
●ご主人との約束。
レースを無事完走できたら「焼肉」に行くという決まりがあります。
だからラスト1周のボードが出ると「やきにく~~~」って思いながら、いや声に出てるかも。
焼肉を思い浮かべて走っています。
最近ではレース終わったら映画に行こうねと、先のことまで考えられるようになりました。
●レース後の楽しみ
第3ヒートと呼んでいるんですが、仲間と一緒にレース後にみんなでご飯食べに行くのが楽しみ。
最初バイクに乗るとやせるぞって言われたけどバイクに乗った後のご飯やお酒がおいしすぎて±0ですね。
●樹さんにとってレースに出ることとは?
非日常感。
レースに出てスカッとしていい汗かいておうちに帰れば反省ばっかりですが、完走して表彰台に上ってシャンパンファイトって気分があがります。
シャンパンファイトなんて人生ですることないでしょ!?
非日常っぽいのがいいんですよね。
●樹さんの変化
一日中もちろんお仕事はちゃんとしますけど、バイクのことばっかり考えるようになりました。
自転車で信号待ちしてるとブレーキをクラッチに見立てて青になると同時にパッと放してスタートの練習をしたり、どうしたらバイクを寝かせられるか考えたり椅子に座ってフォームのチェックをしちゃってます。
おとうちゃんのバイク好き以上に私の方がバイク好きになっちゃったかも。
そうそう最近は夢もずっとモトクロス。
この間の夢はモトクロスヴィレッジのテーブルトップでジャンプし過ぎて次のコーナまで飛んじゃってこけるというもの。
そこではっと目覚めたら布団がぐじゃぐじゃ。
以前は寝相はいい方だったのにモトクロスし始めてから夢見ながら体も動いてるのか布団が暴れてます。
●これからの夢
アメリカにスーパークロスを見に行くのが夢です。
あとはアメリカのおうちみたいに家のすぐ裏にミニコースを作って走りたいときにいつでも走れるような環境ができたらな~。
モトクロスを初めて夫婦の二人の先のことまでかんがえるようになりました。
バイクに乗りたくってしかたがないんです。
●レースでの夢
ファンバイクでもこんなに速く走れるんだ!!楽しそうだねって言われるくらいファンバイクを極めたい。
いつまで続けているかわからないけど、周りのおかげでレースができてるんだなって思います。
応援してくれたり声かけてくれたり。
だから転んでも完走したい。その分みんなへの恩返しとして3倍返しで応援しよう!表彰式を盛り上げようと思っています。
●最後に
今回このインタビューを受けるに当たり私でいいのかな?と相談したら
おとうちゃんが「初心者の私だからいいんだよ!」って言ってくれて背中を押してくれました。
自転車しか乗ったことがない私でもモトクロス楽しめています。
たくさんの女性にこの楽しさ知ってほしいです!!
●柴田インタビュー後記
レースで会うことはあってもなかなかゆっくり話せる時間がなく今回ようやくじっくりお話しできました。
話してみると同じモトクロス初心者同士あるあるわかる~の話があって盛り上がりました。
共通の経験や共通の思い。
私もCRF125Fを極めたいCRFで速くなりたいと思っています。
「おとうちゃーん!!」といつも元気にご主人を応援し、レースでも転んでも転んでも立ち上がってゴールに向かう樹さんの姿はちゃきちゃきしてガッツがあって明るくってチャーミング。
レースが終われば、髪の毛をきれいに整えていたりメイクを直したりする女性らしさが素敵だなと思っていました。
最近では街乗りのバイクにも興味が出てきたとのこと。
もうすっかりバイクに夢中。
次のレースからは仲間と共にチーム「5seconds」でレースに出場するとのこと。
スタート前の5秒前も最後の5秒まであきらめないというのが由来だそう。
樹さんにぴったりですね!!
これからもますます楽しみが広がりそう。
樹さんそして送り出してくれたご主人ありがとうございました!!